「心房細動」について教えて下さい。

【回答者】九州大学病院 腎・高血圧・脳血管内科 北園孝成講師

 心房細動は脈拍の間隔がばらばらになる不整脈です。年齢との関係が報告されており、60歳を超えると急激に増加し、欧米では80歳代以降で10%の方が心房細動を持っていると報告されています(日本では欧米より頻度が低いと考えられています)。心房細動を持つ方の多くは無症状ですが、時には動悸などの胸部の不快感を自覚したり、自分で脈を触れて気づく場合もあります。

 心房細動では心房という心臓の部屋が規則的に収縮することができず細かくふるえるように動いているために、血流によどみができて血が固まりやすくなります。その血のかたまり(血栓)が流れにのって脳動脈を閉塞すると心原性脳塞栓症といわれる脳梗塞を発症します。心房細動には一時的に起こる発作性心房細動と持続する慢性心房細動がありますが、心原性脳塞栓症を起こす危険性には両者に差がないと報告されています。心房細動患者では心原性脳塞栓症だけでなく、腎臓や足などの動脈に血栓をとばすこともあり、これらの塞栓症を予防するためにワーファリンという薬剤を用いて抗血栓療法を行います。

 ワーファリンは、肝臓で血液を固める作用を持つタンパク質(凝固因子)が作られるのを抑えて、血液が固まりにくくすることで血栓ができにくくする薬です。肝臓での凝固因子の合成にはビタミンKを必要としますので、ビタミンKをたくさん摂取するとワーファリンの効果が低下することから、この治療を受けている方はビタミンKを多く含む納豆、青汁、クロレラなどの食物は食べてはいけません。また、ワーファリンの必要量には大きな個人差があり、また、同じ人でも食事や体内環境によって必要量が変化することがありますので、月1回は採血を行いPT-INRという検査値を用いてワーファリンの必要量を調節することが肝要です。一般にPT-INRの目標値は2.0~3.0とされていますが、70歳以上の方で心臓の弁に異常がない方は1.6~2.6と低めにコントロールすることが推奨されています。

 心房細動がある方は全員ワーファリンを服用する必要はありません。僧帽弁狭窄症とよばれる心臓弁膜症を持っておられる方、心臓の弁を機械弁に置換する手術を受けた方、心原性脳塞栓症の既往のある方は、使用できない理由がないかぎり全員ワーファリンによる抗血栓療法を受けていただく必要があります。これらの病気がない方でも75歳以上、高血圧、糖尿病、心不全の2つ以上を持っておられる方はワーファリンの治療を受けるほうがよいと推奨されています。

 ワーファリンを内服されている方が抜歯や手術を受ける場合には慎重な対応が必要です。ワーファリンの使用を中止すると、約1%の方に重篤な血栓塞栓症が発症することが知られています。そのために最近では抜歯、白内障の手術、体表の小手術の多くはワーファリンを内服したままで施行することが推奨されています。大きな手術の場合には、入院していただき、ワーファリンを中止している期間もできるかぎりヘパリンという注射剤を用いて抗血栓療法を継続するように注意しています。なお、大きな出血が起こった場合には緊急で専門的治療が必要となりますので、すぐに病院を受診していただくようにしています。また、ワーファリンは胎盤を通過するために妊娠前期には胎児に奇形を発生させるおそれがあります。妊娠中の一定の期間はヘパリンに切り替える必要があり、主治医と十分に相談する必要があります。

 心房細動の最も大きな合併症である血栓塞栓症は十分に注意しながらワーファリンによる抗血栓療法を行うことで長期にわたって安全に予防することが可能です。心房細動をお持ちの方は、ワーファリンの副作用を過度に恐れることなく、きちんとしたスケジュールで抗血栓療法を受けていただきたいと思います。

(日本脳卒中協会 JSA Newsより)

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